この記事の目次

年末調整を基礎から学ぶ – 書き方、保険料控除、確定申告との違い、計算方法など【完全版】

年末調整の書類

<本メディアでは一部、事業者から商品やサービスの広告出稿を受け収益化しています>
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この記事は年末調整に関して全く知らない人でも分かるように、前半部分で年末調整の概念や基本的な知識を中心に解説し、後半部分で具体的な作業内容に関して解説しています。
年末調整の具体的な手法について知りたい方は、後半部分から読み始めると良いでしょう。

年末調整について良くある疑問
~このページで解決します!~
年末調整って何?
その年の所得額と所得税額を確定させて、既に納税している仮の所得税(=源泉徴収税)との差額を精算することです。

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自分は年末調整をするの?
会社に勤めている人は年末調整を行います。

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年末調整しないとどうなるの?
従業員であれば余分な所得税を納税することになります。企業にはペナルティが用意されています。

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年末調整って具体的には何をすれば良いの?
年末調整書類を作成して勤め先の企業に提出すると、企業が年末調整を行ってくれます。

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目次
年末調整とは?
具体的な進め方

年末調整とは?

年末になるとよく耳にする「年末調整」とは、その年の所得額と所得税を確定させて、既に納税している仮の所得税(源泉徴収税)との差額を精算することです。

簡潔に説明しようとするとこのようになるのですが、まだ少し分かりにくいかもしれませんので少し背景を説明します。

政府の大事な財源である所得税は1月~12月までの間で得た一年間の所得額に応じて決定されます。たくさん稼いだ人は所得税が上がる仕組みになっていて、所得額の多い上位6.3%(所得金額1500万円超)の人が納税額全体の68%である3兆2千億円を納税しています。

(財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」の発表)

芸能人やスポーツ選手などの高額納税者(=高所得者)が高額な税金についてテレビでボヤいているのを聞いたことがあるかもしれません。もし2019年にあなたが突然高給取りになったら、当然ながら2019年の所得税額は上がり、今度はあなたがボヤくことになるかもしれません。

さてそれでは、その年の納税はいつ行うと思いますか?

普通に考えれば、その年の所得額が確定してから納税すると思いますよね。例えば2019年の所得税は2020年1月に納税すれば良さそうに思えます。こうすれば、転職して給与が変化しても最終的に一年間で受け取った所得額を把握してから納税することができるからです。政府が正確な金額で所得税を徴税したいだけなら、所得税の納税タイミングを毎年1月や2月等と決めてしまえば問題ないでしょう。

しかし、安定性や納税者の負担を考慮するならば、年一回の一括徴税は取りにくい方法です。年一回の徴税だと国の税収は不安定になりますし、一度に多額の納税をすることになるので納税者にとって大きな負担となるからです。

そこで、政府は毎月徴税をすることにしています。あなたが会社員なら、毎月の給与明細を見ると「源泉徴収税」という税金が給与から引かれていることに気づくでしょう。それが、仮の所得税というべきものです。1年間の正確な所得金額及び所得税額が決定する前から、源泉徴収税として前もって仮の所得税を徴税しているのです。

源泉徴収税はあくまで仮の所得税であって、1年間経過した際に最終的に確定する正確な所得税額との間には差額が生まれることがあります。その差額を年末調整によって把握し、払いすぎている税金は戻し(還付)、不足している分は追加徴収するのです。

源泉徴収税と正確な所得税の間に差額が生まれる理由は少し難しい内容になりますのでここでは一旦割愛します。>>気になる方はこちらで詳細を説明しています。

【年末調整の概念図】

年末調整の概念図
①その年一年間(1月~12月)の所得を確定させて、その所得に応じて②納税すべきだった所得税を算出し、③毎月徴収していた源泉徴収税の合計額と比べた際の④差額を、還付もしくは追加徴税で清算する

確定申告との違い

同じ目的の行為として「確定申告」があります。「確定申告」が個人で行うのに対して「年末調整」は企業が個人の代わりに実施します。その年の所得を誰が政府に報告するかで、確定申告か年末調整なのか言い方が変わります。

確定申告も年末調整も、申告する主体が異なるだけで、その年の確定した所得額を国に申告するための作業という理解ができます。

年末調整と確定申告の違い

会社に勤めている場合、個人で煩雑な作業をして確定申告するのではなく、企業に年末調整してもらうことが基本です。企業は年末調整をすることが義務づけられているので、どの企業でも年末調整作業が発生します。

年末調整の対象者

年末調整では、企業が従業員のその年の所得を確定させる必要があるので、所得確定のために必要な書類を会社に提出していることが年末調整を受ける大前提として必要です。企業は従業員の年末調整を義務として負っていますが、書類が提出されなかった場合はこの義務がなくなって年末調整をする必要がなくなります。企業から年末調整用の書類を受け取ったら、面倒くさがらずに期日までに提出するようにしよう。

対象条件

以下のいずれかに当てはまる人のうち、その年の給与総額が2000万円以下の人が対象です。

  1. 年末調整時点で、国内で働く現役従業員であり、年末調整書類(後で詳しく説明しますが、「給与所得者の扶養控除等申告書」という書類)を提出している人
  2. その年の途中で死亡により退職したが、死亡前に年末調整書類を提出している人
  3. その年の途中で国外転勤となり、日本に居住しなくなったが、国外転勤の前に年末調整書類を提出した人
  4. その年の途中で心身の障害が原因で退職した人のうち、その状況からしてその年は新たに働くことが見込めない人で、退職の時までに年末調整書類を提出した人
  5. アルバイト/パートタイムで働いていた人のうち、給与所得が102万円以下で、その後本年中に新たな勤務先から給与を受け取ることがない中で、退職前に年末調整書類を提出した人
  6. その年の最終給与受け取り後、その年の間に退職した人で、退職前に年末調整書類を提出した人

また注意点として、年末調整書類は原則一社にしか提出することが出来ません。そのため、副業、パラレルワークで働いている人は要注意です。年末調整時点で2箇所から給与を受け取っている人は、どちらか一か所にしか所得確定のための年末調整書類を提出できないため、一か所で得た所得分に関しては、個人で確定申告する必要があります。

対象外の人とは

上述した年末調整対象者でない人は、年末調整が受けられません。理解を深めるために、具体的にどのような人が年末調整が受けられないか改めて記載しておきます。

  1. その年最後の給与支払いまでに、「給与所得者の扶養控除等申告書」を企業に提出しなかった人
    ※年末調整用書類は、原則一か所にしか提出してはいけないので、パラレルワークしている方は、所得が多い方の企業に書類を提出し、そうでない企業からの所得分に関しては個人で確定申告をすること。
  2. その年の給与所得が2000万円を超える人
  3. その年に退職した人で、その後その年の間に別の場所で所得を受ける可能性のある人
    ※再就職した場合は、再就職先の企業が、前職の所得も含めてその年の年末調整を行います。その場合は、年末調整用の書類を再就職先に提出する必要があります。再就職しなかった場合は、個人で確定申告をしよう。
  4. 一年以上海外に居住している人。

上記に当てはまっていない方は年末調整を受けられるので、このまま読み進めよう。

ちなみに、会社の役員であるかどうかは年末調整を受けられるかどうかに影響しません。役員であっても、上記に当てはまていなければ年末調整を受けられます。

また、年末調整を受けられる人でも確定申告をすることもできます。

年末調整をしなかったらどうなる?

年末調整は所得税法(第193~190条)によって、会社の義務と定められています。年末調整をしなかった場合の罰則も設定されており、10年以下の懲役、200万円以下の罰金が課せられる場合があります(所得税法第240条)。年末調整対象者が従業員にいる場合、会社は確実に年末調整を行うこと。

ただし、従業員が年末調整書類(給与所得者の扶養控除等申告書)を提出しなかった場合は会社に課せられている年末調整の義務がなくなります。あなたが従業員の場合、書類を期日までに確実に提出しよう。

ヒント

年末調整は義務となっているため、従業員が確定申告をする場合であっても年末調整を実施する必要があります。年末調整の対象者がいる場合は、必ず年末調整を行わなければならないことを覚えておこう。

年末調整のしかた

ここからは具体的な年末調整の仕方を解説していきます。まずは年末調整の全体概要から説明していきます。

全体の流れ-いつするの?

【年末調整の流れ】

年末調整の流れ

11月中旬:年末調整書類を準備(所轄の税務署から企業に送付される)
11月後半:年末調整書類を企業から従業員に配布
~12月中旬:年末調整書類を従業員から企業に提出
~12月給料日:年末調整
12月給料日:年末調整の結果を鑑みて還付/追加徴税
1月~:納税
1月中:書類の提出

その後、7年間は書類を保管しておきます。

一般的な年末調整に必要な書類は、所轄の税務署から毎年11月上旬頃に送付されてきます。会社の異動届を出し忘れている場合などで、まれに書類が届かないことがあるので、経理担当者は必ず確認しよう。

従業員が行うこと

従業員は、企業から配布される年末調整用の書類に必要記入事項を記載して企業に提出します。記入する事項によって、所得税額が変化するので正確な情報を記載するようにしましょう。また、書類を提出しないと年末調整を受けることができないので、必ず企業から指定された提出期日までに提出するようにしよう。

企業から年末調整書類を受け取ったら、まずは年末調整書類に記載するべき「所得控除項目」の確認をはじめよう。

所得控除項目の確認

所得控除とは

所得控除項目は、正しい所得税を算出するために必要な情報で、従業員自身しか知らない情報です。そのため、年末調整の際には必ず従業員から企業に申告しなければなりません。

そもそも所得税は「課税所得」に対して、定められた税率をかけ合わせて算出されます。「課税所得」とは、給与収入の中から、社会保険料などの国が課税しないと定めている金額(控除項目)を差し引いた所得のこと。課税所得以外の所得は、税金がかかりません。同じ所得を得ていても、社会保険を支払っている人と支払っていない人では、所得税額が異なるのです。

年末調整では、従業員が自分の給与収入から非課税にできる所得(所得控除項目)を企業に申告することで、企業が従業員の課税所得を把握します。従業員にとって年末調整は「所得控除項目の企業への申告」という見え方になるでしょう。

課税所得の概念図

ヒント

上図にある「給与所得控除」は、自動的にすべての従業員に適用されるため、年末調整書類で特別に申請する必要はありません。

そもそも「給与所得控除」とは、仕事のための「必要経費」と同じような意味です。本来は、仕事のために発生した経費は領収書を保管しておき、「必要経費」として控除申請するべきなのですが、すべての労働者にそれを課すのは非常に手間がかかるし非現実的なため、収入額に応じて一定額を一律で経費として扱うようになっています。

ちなみに、個人が確定申告する場合は、給与所得控除ではなく、同義の控除項目として「必要経費」を申請します。

さて、収入のうち、課税所得から外すことのできる所得控除の項目にはどのようなものがあるのでしょうか。国が定めている所得控除項目を一緒に確認していこう。正しく申告することで課税所得を圧縮することができ、所得税を減額できます。

控除項目リスト

所得控除の項目は以下のようなものがあります。所得控除は、人それぞれ対応項目や金額が異なります。また、多くの項目は源泉徴収税額には考慮されていない控除となりますので、自分に当てはまる項目があれば、年末調整によって税金が還付される可能性高い。一通り目を通してみよう。

各項目には細かい適用ルールが設けられているので、自分に当てはまる項目を見つけたら、更に詳細を確認すること。

【所得控除項目一覧表】
控除項目名 概要 控除額 申請用紙へ
社会保険料控除 個人で支払っている社会保険料分が、非課税になります。 社会保険料全額 書き方
生命保険料控除 個人で支払っている生命保険料がある場合、保険料額の一部が非課税になります。 契約に依ります。最高で12万円の控除額となります。 書き方
地震保険料控除 個人で支払っている地震保険料がある場合、保険料額の一部が非課税になります。 最高50,000円 書き方
小規模企業共済等掛金控除 個人型年金(ideco)の掛金などが対象の控除項目 掛金の全額 書き方
扶養控除 生計を共にする扶養者がいる場合、人数や扶養者の所得、扶養者の年齢などに応じた金額が控除されます。 一般的には38万円 書き方
配偶者控除 婚姻関係にある配偶者の、その年の所得が38万円以下だと受けられる控除 一般的には38万円 書き方
配偶者特別控除 婚姻関係にある配偶者の、その年の所得が38万円以上123万円以下で、自身のその年の所得が1,000万円以下だと受けられる控除 最高で38万円 書き方
障がい者控除 自身が障がい者であったり、配偶者や扶養家族等が障がい者である場合に受け取れる控除 障がい者との関係性によります。一般的には27万円 書き方
寡婦控除 自身が寡婦(夫が死亡したシングルマザー)の場合、受け取れる控除。離婚してから結婚していない場合は、扶養家族もしくは生計を共にする子供がいる場合受け取れます。 一般的には27万円 書き方
寡夫控除 自身が寡夫(妻が死亡したシングルファザー)の場合、受け取れる控除 27万円 書き方
勤労学生控除 自身が学生であり、合計所得が65万円以下の場合受け取れる控除 27万円 書き方
住宅借入金等特別控除 10年以上の住宅ローンを組んでいる場合に受けられる控除 年末時点でのローン残高などに依る 書き方
基礎控除 全員が受けられる控除。特別に何かをする必要はなく、年末調整にて控除を適用されます。 38万円 必要なし

控除項目の申請

自身に適用されそうな所得控除項目を確認したら、いよいよ申請書を作成していきます。従業員は、年末調整書類に情報を記載して企業に提出することで所得控除項目を申請でき、様々な控除を適用できます。

年末調整書類は、一般的に11月中旬~下旬にかけて企業から従業員に配布され、12月中旬までに回収されます。この書類を提出していないと年末調整が受けられないので確実に提出するようにしましょう。

申請書類リスト

【従業員が記入する年末調整申請書類リスト】
書類名 申請できる控除項目 書き方
①扶養控除等申告書 ・配偶者控除
・扶養控除
・障がい者控除
・寡婦控除
・寡夫控除
・勤労学生控除
書き方
②給与所得者の配偶者控除等申告書 ・配偶者特別控除 書き方
③保険料控除申告書 ・生命保険料控除
・地震保険料控除
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除(idecoの掛金など)
書き方
④住宅借入金等特別控除申告書 ・(特定増改築等)住宅借入金等特別控除 書き方

申請書類の書き方

①扶養控除等申告書

書類の正式名称は「○○年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。
この書類は通常年始に提出しているはずの書類ですが、中途入社等でその年分の書類を提出していない場合やその年の途中で扶養家族の数などが変更になった場合には年末までに提出する必要があります。

この申告書では、所得控除項目のうち以下の項目を申告できます。

  • 配偶者控除
  • 扶養控除
  • 障がい者控除
  • 寡婦控除
  • 寡夫控除
  • 勤労学生控除

給与所得者の扶養控除書類

「平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(国税庁)を加工して作成
①基本情報記入欄

氏名、マイナンバー、住所などの基本的な情報を記載する欄。

②源泉控除対象配偶者

配偶者控除を受けるために記入する記入欄。婚姻関係にある配偶者と生計を一にしており、配偶者の所得金額が38万円以下の場合この欄に記入します。条件に合わない場合(例えば配偶者がいますが、所得が38万円を超えている場合など)はこの欄は無記入にします。

控除を受ける所得者の所得額に依って控除額が異なりますが、例えば所得が900万以下で、配偶者が70歳を超えている場合は48万円が、配偶者が70歳未満であれば38万円が控除(非課税)されます。

③控除対象扶養親族(16歳以上)

扶養控除を受けるために記入する記入欄。16歳以上の生計を一にする所得金額38万円以下の扶養家族がいる場合、情報を記入します。
扶養家族の年齢や居住状況によって控除額が異なりますので、以下の情報を参考に扶養親族の属性を記入欄のチェックボックスで明記しておくこと。

・一般の控除対象扶養親族:38万円控除
・19歳以上23歳未満の扶養親族は、「特定扶養親族」となります:63万円控除
・年齢70歳以上で同居していない扶養家族は、「老人扶養親族」となります:48万円控除
・年齢70歳以上で同居している扶養家族は、「同居老人扶養親族」となります:58万円控除

④障がい者、寡婦、寡夫又は勤労学生

障がい者控除、寡婦控除、寡夫控除、勤労学生控除を受けるために記入する記入欄。自分に当てはまるチェックボックスにチェックをつけます。
障がい者控除は、自分が障がい者ではなく、扶養家族の中に障がい者がいる場合や同居している場合でも異なる控除を受けられるため、障がい者との関係を記載します。

⑤他の所得者が控除を受ける扶養親族等

所得のある配偶者の扶養家族になっている親族がいれば、配偶者と親族の名前を記載します。

⑥16歳未満の扶養親族

16歳未満の扶養親族がいる場合はその情報を記入します。

②給与所得者の配偶者控除等申告書

書類の正式名称は「○○年分 給与所得者の配偶者特別控除申告書」です。
この書類は、次に紹介する「保険料控除申告書」と同じ用紙に印刷されて税務署から送付されてきます。ここでは別々にそれぞれを説明します。

この申告書では、所得控除項目のうち以下の項目を申告できます。
・配偶者特別控除

給与所得者の配偶者控除等申告書

「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」(国税庁)を加工して作成
①基本情報記入欄

氏名、住所などの基本的な情報を記載する欄。

②あなたの本年中の合計所得金額の見積額

この後に出てくる記入欄「④あなたの合計所得金額」計算表にて算出した自分の所得金額を記載します。

③配偶者の情報

配偶者の基本情報と、この後に出てくる記入欄「⑤配偶者の合計所得金額」計算表にて算出した配偶者の所得金額を記載します。

④あなたの合計所得金額

給与収入、事業収入、配当収入などの項目を記載し、自分の合計所得金額を算出する計算表。この計算表で導き出した所得金額を、「②あなたの本年中の合計所得金額の見積額」に転記します。

⑤配偶者の合計所得金額

配偶者の合計所得金額を算出する計算表。この計算表で導き出した合計所得額を、「③配偶者の情報」に転記します。

⑥控除額の計算

②、③に記載した、自分と配偶者のそれぞれの所得金額から、配偶者控除もしくは配偶者特別控除の控除額を明らかにし、結果を記載します。掲載されている計算表を見れば、すぐに控除額が分かるでしょう。

③保険料控除申告書

書類の正式名称は「○○年分 給与所得者の保険料控除申告書」です。

この申告書では、所得控除項目のうち以下の項目を申告できます。
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除(idecoの掛金など)

給与所得者の保険料控除申告書

「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」(国税庁)を加工して作成
①基本情報

氏名、住所などの基本的情報を記入する項目

②生命保険料控除

生命保険料控除を受けるために記入する記載項目。
記載項目は、「一般の生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3項目に分けて記載します。保険料の通知は保険会社から個人に送付されるので、通知書を見ながら記入を進めよう。

保険の種類及び加入時期によって控除額算出の計算式が変化しますが、控除額算出の計算式は項目一番下に表として掲載されているので、指示に従って計算すれば簡単に出来ます。

③地震保険料控除

地震保険料控除を受けるために記入する記載項目。
平成18年12月31日までに長期損害保険に加入している場合、保険の種類によっては地震保険料控除の対象となります。

控除額には限度額が設定してあるので、記入欄にある注意点を読みながら控除額を計算していくこと。

④社会保険料控除

社会保険料控除を受けるために記入する記載項目。
社会保険料控除は、企業が給与から天引きしていない個人で支払っている社会保険料(介護保険料など)についてその全額が控除されます。また、生計を一にする配偶者や扶養者の分の保険料を支払っている場合も、その保険料について控除を受けることができます。保険の種類、被保険者情報、自身が支払った金額を記載します。

⑤小規模企業共済等掛金控除

小規模企業共済等掛金控除の項目は、多くの人は個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)の掛金を記載することで使用するでしょう。この項目は社会保険料控除と同様、掛金の全額が控除となります。
個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)の掛金は「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」の項目に記載します。その年に支払った金額を記入しよう。

④住宅借入金等特別控除申告書

書類の正式名称は「○○年分 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」です。

この申告書では、所得控除項目のうち、以下の項目を申告できます。
・(特定増改築等)住宅借入金等特別控除

住宅ローンを組んだ初年度は個人にて確定申告する必要がありますが、2年目以降は年末調整で控除を受けられます。税務署から個人に用紙が届くので必要記入事項を記載して企業に提出しよう。

ここまでで従業員側の役目は終わりです。記入した書類を企業が指定する日までに提出すれば問題ありません。あとは企業側で年末調整の作業が行われます。

ここからは、企業がどのように年末調整を行うかを解説します。

企業が行うこと

企業の年末調整は11月初旬から1月~2月まで続く長丁場です。
処理内容を大きく分けると、①書類の準備、②従業員の所得税の確定、③清算(還付/追加徴収)、④法定調書の提出、⑤書類の保管の5つあります。

年末調整書類の準備

年末調整のスタートは、まずは年末調整用の書類を準備することです。基本的には11月中旬から12月中旬にかけて税務署から書類が送られてきます。

書類がないと年末調整ができないので、必要書類が税務署から送付されてきたら必ず確認しよう。また、従業員が記入する書類の配布と回収は早めに行いたい。従業員に対しては少し早めの提出期限を伝えておくと良いでしょう。

従業員に配布し、記入してもらう必要がある書類については上述しています。こちら

書類のリスト

【年末調整処理のために企業が使用する書類】
書類名 概要 詳細
年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表 従業員の給与額から、給与所得控除額を導くための早見表。 詳細へ
年末調整のための算出所得税額の速算表 課税所得から、所得税額を算出するための早見表。 詳細へ
給与所得の源泉徴収票 年末調整後に作成する、その年の年末調整の結果を記載した書類。従業員に配布する他、税務署及び市区町村にも提出します。 詳細へ
給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 年末調整の結果をまとめた合計表。税務署に提出します。 詳細へ
給与支払い報告書(総括表) 年末調整の結果をまとめた合計表。市区町村に提出します。 詳細へ

還付/追加徴税金額の算出

必要な書類が揃ったら、従業員の課税所得、所得税を確定させて源泉徴収税額との差額(還付または追加徴税金額)を算出していきます。

なぜ還付が発生するのか

源泉徴収税額と、年調税額の金額に乖離が生じているからです。源泉徴収税は、毎月の給与額に応じて自動的に徴収されている仮の所得税です。毎月の給与、企業が加入している厚生年金等の社会保険、扶養家族の数によって計算するものですが、あくまで限られた情報の中で算出された概算であるため、正確な所得税ではありません。

年末調整では、確定した所得税額と源泉徴収額との差額を清算、すなわち源泉徴収額の方が大きければ還付を、小さければ追加徴税を行います。

源泉徴収税額と所得税が異なる理由は以下のようなものがあります。

    • 源泉徴収税額は、所得金額をもとにした概算で指定されています。例えば、その月の給与が59万円の人と、59万3000円の人の源泉所得税額は一律4万5440円(扶養親族が0人の場合)です。所得額が異なるので本来であれば所得税額は異なるはずなのですが、源泉徴収時は大雑把に徴収されています。

 

    • 源泉徴収税額は、毎月の所得額が変わらず一年続いた場合を仮定して設定されます。その年の途中で所得額が変化することによって税率や控除額等が変化したとしても、既に徴収してある源泉徴収税には影響を与えないため、最終的に一年間の所得が確定した際に課せられる税率や控除額と乖離が発生することがあります。

 

    • 「所得控除」の項目の中には、扶養家族の数に応じて控除されるもの(配偶者控除、扶養控除額など)もあります。
      年の途中で扶養家族の数が変わったとしても、既に徴収してある源泉徴収税額(徴収時は所得控除が適用されていない税率で算出されている)には影響を与えないため、年末調整の際に算出される控除額と乖離が発生します。

 

    • 賞与(ボーナス)が発生した場合、源泉徴収税額は少し特殊な算出方法になります。賞与(ボーナス)に課す税率は、その前月の給与額に応じて変化するうえ、この税率は年に5ヶ月分の賞与が発生することを前提に決定されています。この計算で算出された税率、税額は、一年間の所得が確定した後にきちんと計算した際に算出される税額とは異なる場合が多い。

 

    • 「所得控除」の多くの項目は、源泉徴収税額算出の際には適用されていません
      配偶者特別控除や、保険料控除などは、源泉徴収税の算出に際しては所得から控除されず、年末調整の際には控除されます。そのため、この控除分が課税所得の差を生み税率や税額が変化します。

 

ヒント

源泉徴収額は、前年の年末調整の結果とは全く関係ありません。そのため、たとえ前年にきちんと年末調整をして個人で支払う社会保険料等の所得控除を申告していたとしても、次年度の源泉徴収額には影響を与えません。そのため、年末調整は、例え前年と状況が変わっていなくても確実に行うべきものなのです。

このような理由から、源泉徴収額と、年末調整後に確定するその年の納税額の間には乖離が発生するのです。

算出方法と手順

手順①:従業員の所得控除額の確認

従業員に記入してもらった年末調整書類をもとに、所得控除額を計算しておきます。
所得控除についてはこちら

手順②:従業員の給与額と源泉徴収税額の集計

従業員にその年に支払った給与額と、徴収した源泉徴収税額を集計しておきます。年末調整処理時点では支払っていない12月分の給与額も集計に入れることに注意すること。

源泉徴収税額は、源泉徴収額表を使用することで簡単に把握することができます。給与から社会保険料を除いた額と、扶養親族等の人数を把握すれば、源泉徴収税額を簡単に把握することができます。

【源泉徴収税額表】

「給与所得の源泉徴収税額表(平成30年分)」(国税庁)を加工して作成
手順③:従業員の給与所得控除額の確認

手順②で算出した従業員の給与額から「給与所得控除額」を算出します。「給与所得控除」は給与収入額に応じて定められる控除です。収入額のみが問題になりますので、算出方法は簡単です。「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を見ることで直ぐに算出できます。例えば、その年の給与が183万円だと、給与所得控除後の所得額は108万8千4百円となります。以下の図を参照。

「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」

給与所得控除後の給与等の金額の表_sample

「平成29年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」(国税庁)を加工して作成
【平成29年分~平成30年分の給与所得控除額表】

以下の税率で算出しても構いません。

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
650,000円に満たない場合 650,000円
1,800,000円以下 収入金額×40%
1,800,000円超-3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超-6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超-10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)
手順④:従業員の課税所得額と所得税(年調所得税)の算出

手順②で算出した従業員の給与額から、手順①で確認しておいた所得控除額と手順③で確認した給与所得控除額を引き算して、従業員の課税所得額を算出します。また、この課税所得額をもとに、その年の所得税(年調所得税)を算出します。年調所得税は「年末調整のための算出所得税額の速算表」を見ることで素早く正確に求めることができます。

平成49年までは年調所得税の2.1%が東北大震災の復興税として徴税されるため、算出した年調所得税に102.1%を乗じること。

【所得税の算出式】
 ①課税所得金額 × ②税率 – ③控除額 = 所得税
【年末調整のための算出所得税額の速算表】

所得から、給与所得控除、所得控除を差し引いた後の課税所得額をベースに、年調所得税を求めるための表です。
①課税所得金額×②税率-③控除額で年調所得税を算出できます。

①課税所得金額 ②税率 ③控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円
手順⑤:年調所得税と源泉徴収税額の差額確認

手順④で算出した年調所得税と、手順②で確認しておいた源泉徴収税額の差額を算出します。

清算

年調所得税と源泉徴収税額の差額が算出できたら、差額の清算(還付もしくは追加徴税)をしていきます。

還付方法

源泉徴収税額の方が多かった場合、年末調整を実施した月(多くの場合、12月になります)の給与で徴収する源泉徴収額を減額する形で還付します。一度で還付しきれない場合は、翌月以降も同じ方法で還付を継続していきます。3ヶ月経過しても還付しきれない場合などいくつかのケースでは、税務署から還付してもらうように申請ができます。

追加徴税方法

源泉徴収した所得税額が、年末調整後に確定した所得税(年調税)よりも少なかった場合は、12月の給与を減額する形で追加徴収します。ただし、追加徴収した際に手取り給与額がその年の平均手取り給与額の70%以下になってしまう場合は、税務署にあらかじめ申請することで翌2月までで分割徴収することができます。

書類の提出

ここまでの処理が完了したら、従業員、税務署、市区町村にそれぞれ必要書類を提出します。これが終われば年末調整終了です。

従業員に交付する書類

給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書)

全ての年末調整処理が終わったら、従業員に「給与所得の源泉徴収票」を交付する必要があります。年末調整した結果を記載する用紙だと理解すると良いでしょう。給与額や控除項目などを記載します。詳細な記載方法は、国税庁が公開しているので参照すると良いでしょう。

給与所得の源泉徴収票

給与所得者の配偶者控除等申告書

「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」(国税庁)を加工して作成

税務署に提出する書類

法定調書合計表

税務署に年末調整の結果を申告する書類「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を作成して、「給与所得の源泉徴収票」と共に所轄の税務署に提出すること。

「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」は、企業(給与の支払い者)が、従業員への給与額や源泉徴収額の合計を記入する用紙。年末調整で作成した給与所得の源泉徴収票を用いて、支払い給与額、源泉徴収額などを記入していきます。1月末までに作成して、税務署に提出する決まりになっています。

法定調書合計表

「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」(国税庁)を加工して作成

市区町村に提出する書類

給与支払報告書(総括表)

「給与支払い報告書(総括表)」は、市区町村に提出する源泉徴収票に添えて提出する報告書。給与支払い者の情報や、従業員の数、所轄税務署の情報などを記載するもので、市区町村に給与支払い者について簡単にまとめて報告する目的の用紙です。

企業は「給与所得の源泉徴収票」と共に従業員が居住している市区町村に提出します。

用紙のフォーマットは市区町村によって異なるものが配布されていますが、執筆項目は同じです。参考として東京都豊島区の給与支払報告書(総括表)はこちらで閲覧できます。

書類の保管

年末調整を行う企業は、年末調整の対象者に関する以下の書類を翌年1月10日から数えて7年間保管する義務があります。保管した書類は、税務署長から提出を求められた場合は提出する必要があります。

【7年間保管する必要のある年末調整書類リスト】
  1. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  2. 従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
  3. 給与所得者の配偶者控除等申告書
  4. 給与所得者の保険料控除申告書
  5. 退職所得の受給に関する申告書
  6. 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
  7. 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書

年末調整はやり直せる?

年末調整書類に不備があったり、年末を迎えるまでに控除項目が増えた(結婚したなど)場合、年末調整をやり直すことで正しい控除を受けることができます。ただし、修正には期限があり、翌年1月末までと決められています。年末調整に関わる状況の変化があった場合は、速やかに企業に伝えて年末調整のやり直しをしてもらおう。

もし1月末を過ぎてしまったら、3月末までに個人で確定申告をすれば問題ありません。確定申告は手続きが面倒なので、なるべく年末調整を活用するのが良いでしょう。

3月末までの確定申告も逃してしまった場合、過去5年にわたって還付申請できる「還付申告」という仕組みがあるので活用してみよう。

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